はじめに
高齢者を狙った特殊詐欺に対する新たな対策として、AIが呼吸や心拍数の変化から詐欺の兆候を検知する技術が開発されました。
この記事では、その実証実験の詳細や今後の展望について解説します。
高齢者の生体データから詐欺リスクをAIが推定 実証実験で高精度を記録
兵庫県尼崎市、東洋大学、富士通の3者は、高齢者を狙った電話型の特殊詐欺被害を未然に防ぐため、AI技術を活用した実証研究を行いました。
この研究では、非接触型のミリ波センサを用いて高齢者の心拍数や呼吸数を計測し、AIが詐欺の兆候を検知する仕組みを開発しました。
実証実験は2024年11月に実施され、尼崎市内に住む高齢者の自宅にミリ波センサを設置しました。
通話時の心理的な動揺や緊張が生理反応として現れることに着目し、AIがこれらの変化をリアルタイムで解析することで、詐欺の可能性を数値化する仕組みを構築しました。
その結果、AIによる検知精度は82%に達し、従来の対策では見逃されていた生体反応の変化に着目した新しいアプローチとして注目されています。
この成果により、高齢者自身の判断に頼らず、周囲やシステム側で早期に異変を察知できる可能性が高まりました。
研究を主導した東洋大学の桐生正幸教授は、「特殊詐欺削減に向け、社会に実装できる装置を作るうえでの素地ができた」と述べています。
富士通が製品化を視野、高齢者見守りの新たな潮流となるか
富士通は今回の実証成果を踏まえ、検知システムの商用化に向けた取り組みを進めています。
しかし、実装に向けては課題もあります。
たとえば、生体反応の個人差や、日常会話との区別精度、プライバシーへの配慮などです。
特にAIが心理状態を解析するという点で、利用者の同意や情報管理の徹底が不可欠となるでしょう。
さらに、システムの導入が新たな不安や誤検知を招かないよう、ユーザー教育や運用体制の整備も求められます。
それでも、呼吸や心拍といった「無意識下の反応」を活用する本手法は、今後の高齢者見守りや遠隔医療の領域にも応用可能性を広げると考えられます。
高齢社会を支えるテクノロジーとして、社会実装への期待は着実に高まりつつあります。
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